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『機動戦士Ζガンダム A New Translation』について 2/4 ニュータイプがもっていたビルドゥングスロマンの可能性と挫折

 『新訳』は「疲弊期」の作品ではない。しかし「疲弊期」のテレビ版とすり合わせがないため、不可解な作品になってしまった。

 『新訳』は「カミーユが精神崩壊に至らないためのラスト」から逆算して作られたのではないだろうか。ロザミア・バダムのエピソードのオミットはその典型だろう。
 テレビ版『Ζ』を「カミーユの悲劇」として楽しんできた俺には諸手を挙げて絶賛することはできない作品だ。悲劇の連続を体験したカミーユだからこそパプテマス・シロッコを討ち取れたはずからだ。

 おおまかなストーリーはテレビ版と同じものであり、主要登場人物たちが次々と死んでいく展開は、カミーユに深刻なトラウマに与えていき、彼の性格が温厚に改変されとはゆえ、ラストを変えるほどのストレスの軽減になったと思えない。「いまの富野」と「むかしの富野」のすり合わせができていない。

 突如現れる幽体なども「富野の自己模倣」という観点がなければ理解不能だろう。ここも「疲弊期」の「むかし富野」とのすり合わせができないがために不可解になった場面である。
 カミーユの愛機Ζガンダムのバイオセンサーが幽体の登場に一役買っているというのもわかりづらい。バイオセンサーの活躍がそれまで描かれなかっただけに唐突感は否めない。

 シロッコもまた「悪役」としてわかりづらい。彼は本来は政治級の物語の登場人物で、戦術級の戦いに参加するのは(シャアと同じく)、作品のご都合主義でしかないだろう。カミーユが彼を否定するほどの動機がわかりづらいのはそのためだと思っている。

 アニメ様がアムロは大人になるのではなくニュータイプになってしまって残念だという趣旨の記事を書いてらっしゃったが、「通俗的な意味でのビルドゥングスロマン」の否定は、初代『機動戦士ガンダム』の核心である。ニュータイプというイディアルな人類像を期待できるからこそ「本来的な意味でのビルドゥングスロマン」に近づくからだ。

 それを否定したのがテレビ版『Ζ』であった。アムロもシャアもイディアルな人類像の嚆矢になれず、ニュータイプのちからを最大限に活用したカミーユは精神崩壊を起こす。
 カミーユの精神崩壊は、初代の文脈におけるニュータイプ観の破壊であったのだ。カミーユ以後はニュータイプは戦う道具に成りさがるのである。

 ニュータイプの理念が復活するのは『機動戦士ガンダムF91』まで待たなければならなかった。
 しかし戦争のない世界をつくれなかったシーブックとセシリーなら、かれらもまた挫折したといっていいだろう。

 富野ガンダム最後の宇宙世紀もの『機動戦士Vガンダム』に至って、ニュータイプはサイキッカーと呼ばれるようになり、完全に世俗化されて、その理念を捨てることになる。

 だからこそ『新訳』のラストは不可解である。「むかしの富野」と“格闘”しなかったゆえの安直なラストである。
 ましてそれが俺のお気に入りの『F91』の自己模倣なのだから、不愉快なのである。
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コメント

旧作の場合は

「時代の苦しみ」の中に飛び込んでしまった、カミーユが思い切り自ら苦しみもがく事で「時代」その物と「一体化」して行く事に最大の眼目があった感じですよね。

彼一人がレギュラーだった事を考えても、ここまで一人に集約された例は無いわけで。

あくまで結果的にそうなったのかもが、それだからこそ新訳には一種の「距離感」を感じてしまったくらいですが。

Re: 旧作の場合は

 コメント、ありがとうございます。
 
 「時代の苦しみ」というのは面白い表現ですね。

 カミーユはニュータイプとしての能力と、その性格から、「感じすぎる」んですね。

 「感じすぎる」というのは当事者意識が強くなりすぎて、「時代の苦しみ」すべてを背負う危険があって、そんな重圧に耐えられる人間なんていませんよね。狂っていくしかない。

 適度に傍観者としての節度をもたないといけない、という点で、『新訳』の「距離感」というのは意図的だったと思います。

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