ガンダム30周年でなんか書こうと思ったらもう師走だよ

新房のやろう、茶も出しやがらねー

 俺は礼儀正しい男だ。人様の家にお邪魔したら玄関のたたきの端っこに靴の踵を揃えておきたい。
 だから俺はたたきの端っこを探した。だがない。たたきがずっと続いている。
 あれ? これたたき? ただの廊下じゃね?とひやりとする。家間違えたかな。念のため戻って表札をみるとやっぱり新房家「ダンスなんとかバンパイア」。うむ、ここじゃここ。
 玄関に入る。たたき。たたき。たたき。廊下みたいなたたき。すげーなこれが新房家か。ずっとつづく。お。やっとたたきが終わった。ふう。靴を脱ぐ。ドアがある。客間かな。開ける。外に出る。裏口だった。
 これが俺の何度目かの新房体験。あのやろう。
 『ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド』は、設定とかあらすじを読んだぎりでは、俺でも楽しめそうだと思った。それがこの体たらくだよ。





 文体のない文体が最高の文体だ、という話がある。エンターテイメント小説の世界ではそうだ。
 なぜなら読者は文章を読みたいわけではない、小説を読みたいのだ。詩集を買った覚えはない。
 文体は「透明」でなければならない。


 金田伊功というスター・アニメーターがいた。俺は熱心なファンではなかったが、俺程度でも彼はすぐに「発見」できた。『999』や『ブライガー』OPなど。
 しかし彼が宮崎駿と組んで以来、俺の前から「消えた」。俺程度からは見えなくなってしまったのだ。
 彼は「透明」化の力を手に入れたのだ。


 作画だろうと演出だろうと、本来は「透明」でなければならないと思う。
 すくなくとも東映動画系ではそうだったろう。いや虫プロ系にしたところで同様のはずだ。
 エンターテイメント作品であればみなそうだろう。



 北方謙三という小説家がいる。安彦良和と同じ団塊世代で、安彦良和と同じように大人の男が描けないという問題を抱える作家だ。
 その彼が主人公の若者の主観世界に徹したために唯一成功した傑作がある。純文からの転向第一作『逃れの街』だ。
 この『逃れの街』が、主演水谷豊で映画化されている、と聞いたとき、俺がどれだけ喜んだことか。
 『傷だらけの天使』で、ショーケンと組んだ、あの水谷豊である。「あにきぃ」である。監督も同じく『傷だらけの天使』も撮っていた工藤栄一。この布陣、どう見ても傑作にしかなりようがありません、ありがとうございました、ってなもんだ。
 でレンタルで借りてきて胸をときめかせて観たわけだ。
 なんかねヌーベルバーグっぽくなってんの。噴水がね、無駄に赤くなるの。いやなんで赤くなるの? わけわかんない。
 「普通に撮れよ普通によおおおおおおお」と俺が身悶えしたことはいうまでもない。
 その後、小説『逃れの街』とほぼ同じテーマ、似たストーリーの『パーフェクト・ワールド』がハリウッドで作られ、世界的に大ヒットしたとき、俺がどれだけ悔しい思いをしたことか。監督はいまやウルトラ正統派のクリント・イーストウッド。ま。しょうがねっか。……って納得できるかコンチキショウ!



 俺は表現主義の系譜というのは、やっぱり受けつけない。表現主義を堪能するには、俺は俗人すぎる。
 俺は表現は「透明」であってくれないと困る。
 俺は本来、監督の名前で映画を観にいくタイプじゃないのだ。惚れたら別だ。しかし惚れる前から表現者の名前に興味を持つタイプではない。


 富野はもちろん、出崎にしたところで、「透明」な演出家、監督だ。「演出ショー」「監督ショー」のひとではない。
 俺程度の人間にとり、その違いは、とてつもなく重要なのだ。


 『ヤマト』ファンの間でSFに詳しくない人間は自分は「SFファン」であると勘違いしていた、と書いたが、同じことは『ガンダム』ブームに巻き込まれた俺にも言えることなのだろう。
 『ガンダム』ブームのときは『ガンダム』ファンは「SF」ではなく「アニメ」に押し付けられたわけだ。そこでアニメに詳しくない人間は自分のことを「アニメファン」と勘違いしてしまったわけである。俺もまたそのひとりだった。そのことがようやく最近胸落ちしてきた。

 WEBアニメスタイルで知ったことだが、鈴木敏夫編集長時代の『アニメージュ』には東映動画系スタッフへの傾注があった。当時のアニメブームのなかでは本道とはいえない路線だが、鈴木敏夫はそれをプッシュしたわけだ。そのなかに宮崎駿がおり、『ナウシカ』によるアニメ監督としての復活劇の種がまかれることになる。『未来少年コナン』第一話絵コンテが付録についてくるような雑誌であった。
 その鈴木敏夫が惚れこんでいた監督のひとりには、押井守もいた。トップ屋出身の鈴木敏夫はアニメについは何もわからなかったと後年述懐するが、あのアニメブームのなかで、高畑勲、宮崎駿、押井守といった監督に目をつけるあたりは尋常ではない。

 TV版『うる星やつら』は、押井守のシリーズ・ディレクターとしての才能が発揮された作品であるらしい。らしい、というのは、俺はそれには反応できなかったからだ。
 スタッフをどう配置するかを決める役職をキャスティング・ディレクターというらしいが(映画だと役者を決める役職だと思ってたけど)、押井の才能のひとつはそこに発揮されたようなのだ。
 各話のスタッフたちの活躍を楽しめるのが、おそらく「アニメファン」と(俺のような)バンピーとの差ではないか、とようやくわかってきた。

 人気監督の新房昭之は、あきらかにこのキャスティング・ディレクターとしての才能に恵まれているのだろう。
 俺には「見えない」が、「見えない」ということを共通項でつながった糸として想像すれば、押井-幾原-新房というラインがありそうである。
 すぐれた、そして挑発的なキャスティングをするキャスティング・ディレクターの系譜である。
 表現云々とは別に、俺が新房監督作品に反応できない理由のひとつには、たぶん、このあたりにもあるのだろう。
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コメント

shiwasuさんの「キャスティング・ディレクター」論だと佐藤順一とか高橋良輔あたりはどういうポジションに来るんでしょう?

 どうもコメントありがとうございます。
 正直いいまして、その両監督については詳しく存じ上げてないのですが、俺が「見えない」問題は、「挑発」性ではないかと思います。俺はそこに反応できない。演出の文化祭も、演出の決闘場も、演出の博覧会も。各スタッフを気に掛けるほどのアニメリテラシーがないから、というのが大きいのかな。
 高橋良輔監督作品できっちり観たのは『ボトムズ』だけなんですが、スタッフの配置は適材適所という以上のものではなかったと覚えています。「すぐれた」ものであっても「挑発」的なものではなかった、というかな。「なんだこれは」と身構える必要のない、テレ東昼のアメリカ製アクションTVドラマ(笑)なみに、ゆるい気持ちで観られましたから。

 「キャスティング・ディレクター」は、WEBアニメスタイルの板野一郎インタビューのなかで知った言葉です。この使い方って板野だけなんですかねー。

 http://www.style.fm/as/01_talk/itano04.shtml
 「石黒さんという人は、キャスティングディレクターとして一流だったんじゃないかなと思っています。」というあたり。

うーん。
「見えない問題=挑発性の問題」と
「キャスティングディレクター」との関係がいまいちピンとこないんですよ。

ただ、俺の中で「キャスティングディレクター」というのに非常に反応するところがありまして。
というのも押井にしろ幾原にしろ新房にしろ高橋良輔にしろ石黒さんにしろ、
宮崎・富野・出崎のような「ワンマンディレクター」には敵わないから「キャスティングディレクター」の道、
つまり集団で戦う道を選んだという仮説があるんです。
そういう意味では押井守は途中から「ワンマンディレクター」に路線変更したとも言えるかもしれません。

ただ、シワスさんは「キャスティングディレクター」達が「見えない」一方で、「ワンマンディレクター」である富野・出崎も「見えない演出家」だという。
なにか、ここに今俺が知りたいことが隠されているような気がするんですが・・・

 ああ、そっか、俺の書き方が悪かったかなー。

 「表現者」が見えなくても、楽しめるのが、エンターテイメントだ、というのが俺の立場。
 その点で、富野も出崎も、普通は「見えない」し、「見えな」くても、楽しめる作品の作り手。

 俺が反応できない「挑発性」とは、表現者の色を見せようとする姿勢、ということかなー。
 俺の実感としては、「演出ショー」とか「キャスティング・ディレクション・ショー」を「見せられる」感じ。

 高橋良輔には「ショー」は感じない。新房昭之には「ショー」を感じる。そこに普遍性の差が出てくる。
 俺のなかでは個人戦と集団戦の対比じゃない。

 だから俺が「反応できない」監督たちの、特異な才能が(俺からは)「見えない」と書いたのは、俺の失敗でした。
 こちらは「わからない」とか「ピンとこない」とか、書き分けないといけなかった。

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