ガンダム30周年でなんか書こうと思ったらもう師走だよ

『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』について 6/6

 主人公ふたりと、敵ひとり、というのが『機動戦士ガンダム』の基本構造だと書いた。敵ひとり、というのは敵の描写を減らすためではないか、というのが俺の憶測だった。おかげでシャアは忙しい男になった。指揮官とパイロットを同時にこなすという嘘っぽい設定になってしまっている。子供番組の気安さがある。
 子供番組の基本構造は『逆襲のシャア』にも引き継がれている。シャアは総帥とパイロットを同時にこなす。軍事方面に完全に疎い俺だが、大人向けの映画でこの設定はリアリティレベルを混乱させているのではないかと思う。初見殺しである。

 作品冒頭、さっそく戦闘場面があり、シャアはみずから単騎で出陣することになる。誰も止めない。ここでシャアの紹介がある。作品世界の紹介にもなっている。作品のリアリティレベルを疑わせない強引な措置とも言える。
 シャアがなぜ単騎で出陣しなければならなかったのか、といえば強化人間ギュネイが苦戦しているからである。強化人間とは常人を超えたパイロットだ。そのパイロットすら凌駕するのがシャアというわけだ。普通の兵士では無理なのである。しかし強化人間の説明がないだけにシャアの凄さを表す場面とはわからない。わかりやすさより世界内ロジックを優先させている。富野の魅力であり欠点でもある。その点でも初見殺しだ。

 シャアとアムロが対立し旧知の仲であること、隕石落としの成功、隕石落としの意味、シャアの野望、あえてファンネルをつかわない謎、ついでのように強化人間のMSを難なく破損させるアムロ、はやるギュネイ、そんな若者をさとすように撤退を指示する冷静さ、などなどこれほどの情報量が「シャアとアムロの芝居」という表層の魅力の下に凝縮されている。さすがの富野であり、さすがの初見殺しである。
 
 表層の芝居の魅力や巧みなストーリーテリングで、「なんとなく」で充分観れる作品だ。アクションとメロドラマ、フィロソフィーなどぞんぶんに楽しめることができる。よくできた映画なのだ。しかしその楽しさだけでは娯楽作品としては“弱い”のも確かだ。富野フィルムらしく、緻密に圧縮された情報を読み取ることによって、よりいっそうの魅力を発揮する作品といえる。

 『逆襲のシャア』は一本の映画として観るのがつらい。“本気”の富野がみられる作品なだけに、もどかしく、悔しく、残念なことだ。
 映像表現とは別のところ、脚本レベルに関しては、富野の作家性が剥き出しになった小説作品の愛読者だっただけに、これといった新鮮味が感じられず、「作家としての富野の疲弊」を感じさせられたことも残念に思ったことのひとつだ。映画作家としての凄みに比して、内容があまりにも「いつもの富野」であった。拍子抜けをした。

 しかしシャアとアムロの決着をつける本作の場合、「いつもの富野」である必要もあったのだろう、と今となってはわかる部分もある。「どこかでみた」繰り返される対決の「陳腐さ」が本作のテーマのひとつだからだろう。シャアとアムロの対立は、その壮大な背景に比して、あまりにも矮小である。芝居の魅力が情念の葛藤だとしても、シャアとアムロの確執は、青臭い若者のそれと少しも変わらない。

 若き日のシャアはアムロと対決し、そのなかで二重の意味で最愛の女性ララァ・スンを失うことになる。ひとつはララァがアムロに惹かれたこと、もうひとつはララァがアムロに殺されたこと。そのことは、最低限の続編要素として作中で説明される。しかしそれは説明でしかない。作品の根幹をなすほどの重量が与えられていない。このことも今作をわかりづらいものにしている。
 シャアがララァという寝言を言う男であることが明かされ、それが事実らしいということは彼の現在の恋人ナナイ・ミゲルがララァの再来と言われる13際の小娘を意識してしまう場面で表現されている。シャアがナナイの胸に甘えるように顔を寄せたあとの芝居なだけに余計に印象に残る。その印象がのちのち活きてくることになるのだから周到な作劇といえる。その周到さが続編映画の要素のなかに埋もれてしまうのが惜しいのだ。

 今作においてシャアは大量虐殺者だ。これから虐殺しようとするという展開だが、作品がはじまる前にも隕石を落として大量の人命を奪っている。
 しかしそこを描かない。作中人物の台詞を借りてその事実が語られるだけだ。シャアが巨悪にみえない。意図的なものだろうか。ここもまた今作をわかりづらいものにしている。

 シャアが巨悪にみえないことは、アムロとブライトの正当性をわかりづらいものにしてしまっている。腐敗した現実であっても巨悪からは守る、という正当性である。
 シャアの大望に対して、守勢に回るしかない情けないキャラクターにみえてしまうのだ。悪くいえば体制の走狗にしかみえない。ヒーロー然としていない。活劇としてのバランスが悪い。シャアに偏りすぎている。今作の「失敗」のひとつだと思う。

 シャアに偏りすぎたという「失敗」はクライマックスで表出する。
 愚かな人類をいますぐ矯正してみせろ、と言い放つシャアの情念に対して、アムロの抗弁はあまりにも綺麗事だ。
 ララァ・スンは私の母になってくれたかもしれない、という告白に対して、アムロは絶句するしかない。

 表面上は「対決」している二人だが、実質は対立にすらなっていない。シャアの独擅場だ。アムロはただのシャアのインタビューアーでしかない。
 人類の業を背負いララァへの恋慕を語るシャアの前にあって、最低限の正当性すら持たされなかったアムロは空々しい正論しか吐けない。
 そんなアムロが最終的にシャアに勝てるわけがないのである。

 だからこそラストはご都合主義の奇跡にしかみえない。
 俺にとり今作にいまひとつノレなかった最大の理由はそこだ。

 とってつけたようなラストをのぞけば、今作は苦いペシミズムが横溢している。苦いペシミズムは手塚治虫から富野由悠季が継承したもののひとつだ。そこに殉じきれなかった不徹底さを残念に思う。

 若いニュータイプの勝利と青年シャアのけじめを描いた初代ガンダムから、若いニュータイプの陳腐な悲劇と中年シャアの陳腐な戦いを描いた今作までで、ガンダムは完結したことになる。(『F91』で再起動される予定になるのだがそれはまた別の話だ)
 ガンダムはこの変遷によって、ジュブナイルの甘美な希望の物語から、陳腐な現実に埋もれていく大人の物語までを描いた一大ビルドゥングスロマンになったと言っていいだろう。

 ガンダムを卒業できなかった大人のための物語である。ガンダムを語るうえで決して外していけない作品であることは間違いない。

 オトコという、過去を清算できない生き物を描いた興趣つきない映画だ。
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コメント

劇中でわざわざ

 「私はお前と違ってパイロットだけやってるわけにはいかん」と言わせているのもポイントですよね。

 
 ギュネイについては「主役になれなかった男」という感じもしますね。

 彼については『Z』のラスト近くに出てきたゲーツ・キャパが直接の前身という感じもしますが。

Re: 劇中でわざわざ

 コメント、ありがとうございます。

>  「私はお前と違ってパイロットだけやってるわけにはいかん」と言わせているのもポイントですよね。

 そうなんですよね。そこがシャアの可愛いところです。
 馬と車の追いかけっこというのも面白かった。何かの映画からの引用なのかな。富野の独創だとしたら凄い。

>  ギュネイについては「主役になれなかった男」という感じもしますね。

 「主役」に見えそうになったのは、キャラクターデザインと山寺宏一の「若い野心家」という演技のおかげもあったかもしれませんね。カッコイイですもんね。
 クェスにまったく相手にされなかったのは可哀想でしたが。

ギュネイについては

小説でのナナイとのやり取りも強烈ですよね。

確かに映像では出来そうもないですが。

あとレズンとの反目とかも。

Re: ギュネイについては

 コメント、ありがとうございます。

 仰るとおりだと思います。
 ギュネイの扱いはちょっと可哀想でしたね。

冒頭では

リ・ガズイのアムロにもやられかけてましたからね。

やはりランクが違い過ぎると。

Re: 冒頭では

 コメント、ありがとうございます。

>  やはりランクが違い過ぎると。

 仰るとおりだと思います。
 まぁ噛ませ犬ですよね。

それでも

 同じリ・ガズイのケーラを相手にした時は全く問題にしてませんからね。

 あの辺りのバランスもなかなかに注目で。

Re: それでも

 コメント、ありがとうございます。

>  あの辺りのバランスもなかなかに注目で。

 まったくその通りですね。
 核ミサイルだけを狙い撃ちしたように「無能」どころか「優秀」なんですよね。
 それでもアムロとシャアには眼中ないぐらいで。
 『逆襲のシャア』のこういうところはカタルシスがありました。

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